特集コンテンツ一覧

特集コンテンツ一覧

海住山寺トップページへ

海住山寺の五重塔について その二

 海住山寺五重塔には初重に裳階が付設されていて、これが本塔の特徴の一つにもなっています。五重や三重の多重塔で裳階を付けたものは、江戸時代以前に建立された現存塔 125基のうち、本塔のほかには法隆寺五重塔・薬師寺東塔(三重塔)・安楽寺三重塔(長野、13世紀末)の3塔しかありません。法隆寺塔と安楽寺塔は本塔と同じく初重にだけ裳階が付けられていますが、薬師寺塔では各重に付けられています。
 裳階は、字のとおり裳(女人が腰から下にまとった衣)の階(層)という意味で、重には数えない下屋のような部分を指します。薬師寺塔は一見六重のようにみえますが、裳階は屋根の出が各重の本体部分より少なく、柱が方柱で組物(くみもの)が平三斗(ひらみつど)であるなど簡略な形式になっていて、付属の部分であることがよく分かります。法隆寺塔ではさらに全体が簡略になっていて、屋根は独特の厚板縦葺(大和葺、本体は本瓦葺)です。平面八角形の安楽寺塔はそれらと少し違っていて、屋根の出が大きくかなり本格的な造りになっていますが、組物は本体の三手先(みてさき)より簡略な出組(でぐみ)です。
 では、本塔の場合はどうでしょうか。屋根は初重より外に出ていて本体の本瓦葺とは異なり厚板縦葺(目板打ち)で、柱は方柱、組物は最も簡単な舟肘木(ふなひじき)になっています。
 他の塔との大きな違いは、裳階の柱筋に建具や壁を設けず吹放しになっていること、初重と裳階に板床があること(ほかの3塔は石敷き又は土間の床)、裳階の取り付き方が異なっていて裳階と初重の屋根の間隔が狭いことなどがあげられます。したがって、本塔では初重の回り縁の束をそのまま上へ延ばし、これに屋根を設けたような形になっています。
 この裳階は、昭和36〜38年にかけて行われた解体修理以前には設けられてなく、解体調査によって取付いていた痕跡や旧部材が見付かり、詳細な調査の結果復原されたものなのです。修理にかかる前には、初重の屋根が大きく突き出ていて、これが本塔の特徴の一つともされていました。解体調査を進めていくうちに、ほかの部分に転用されていた旧初重の台輪(だいわ)(柱頂部にのる横材)に裳階の垂木(たるき)を打付けた痕が見付かり、そのあとは初重の出の大きい飛檐(ひえん)垂木(二段になった垂木のうち外側の上段の垂木)が旧裳階の垂木であること、三重に転用されていた隅木(軒の四隅で45度方向に出る部材)が旧裳階のものであること、初重の縁束が旧裳階の柱を短く切ったものであることなど、それまで解決できなかった点が次々と明らかになりました。
 ところで、この裳階の取付き方が普通の手法でないことは先に述べましたが、それは裳階が建立後暫くしてから補加されたためであることが分かりました。後になって知ったことですが、寺蔵文書の「元仁二年海住山上人御房十三年追善願文」に「加以繕飾塔婆増加階」とあって、元仁2年(1225)の解脱房貞慶十三回忌に向けて行われた追善作事の一つとして五重塔に裳階が付加されたことのようです。
 前回述べましたように、本塔は貞慶の一周忌にほぼ完成していたようですが、おそらくそのあと十三回忌までに初重四天柱内を厨子状に造って彩色を施し、あわせて裳階を付加したものと思われます。
 そのあとも何度か修理が行われていますが、室町時代後期頃の修理で裳階が取り除かれてしまったようです。なぜ取り除かれたのかは分かりませんが、この時に初重の屋根を裳階の代りに大きくしたものと思われます。江戸時代に入ると、3度又は4度続けて修理の行われたことが、文書と解体調査によって分かりました。明暦2年(1657)には、初重の側柱12本がそっくり取替えられています。その時の破損の状況がどうであったのかは不明ですが、先の修理で裳階を取り去ったことが影響しているのかもしれません。裳階が初重を支えるような形で安定性を高めていたとも考えられるからです。この時の修理では、初重の組物に支柱を立てて支え、解体はせずに側柱を一本ずつ横から差し替えたようです。5年後の寛文2年には、大地震で塔が傾き瓦・水煙が破損したためこれを直したとあります。続いて同6年、こんどは大風で傾いたため、足代木の手配をしています。さらに、同11年再度補修の入札が行われました。この時の修理は大がかりなもので、五重・四重は解体して三重・二重を持上げ、初重は解体して側柱12本を再度取替え扉回りなどを一新し、基礎地形も全面的に築き直しています。初重側柱が十数年で再び新しくされ、しかも以前より太くされているのは、明暦2年の修理が姑息な方法で行われたことに起因するのでしょう。その後も何度か小修理が行われ、文化財としての昭和の解体復原修理に至っているのです。
 以上のように、海住山寺五重塔の歴史には、裳階が大きく関わってきたことが分かります。


関連情報